2017年05月08日
シャセリオー展
山田五郎さん:
西洋美術は変なんです。江戸時代の人が西洋画を凸凹画と呼んだ。むやみに立体的なんですよ。西洋画の大きな特徴が二つあって、一つは遠近法。もう一つは陰影法。影をつけて立体的に描く。遠近法で立体的に描く。そこがおかしい。15世紀の時代にダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロが技法を完成させた。400年ぐらい発達した。19世紀になって壊し始める。100年くらいかけて。ピカソの抽象画で完全に壊れた。奥行きがない。印象派の時代に奥行きをなくし、グラデーションの影をなくす。浮世絵の影響もあって。そして、写真が出て来た。リアルに描く西洋画にとって致命的なショックだった。19世紀中ごろから写真には出来ない事を考え始めた。
遠近法を捨てて、きれいな色で描く。タッチを出していく。物を描かなくてよくねえ。リンゴではなくて丸。山ではなくて三角。抽象絵画。絵を描かなくていいだろうと言ったマルセル・デュシャン。便器を出した。それが100年前。マルセル・デュシャンは格好良い。おしゃれなんですよ。ニューヨークで評価されて何でも受ける。マルセル・デュシャンそのものが作品になった。それを真似したのがアンディ・ウォーホル。あるものを描く。自分も変な格好してパーティーを開いて、コンセプトが作品。デュシャンのせい。
「シャセリオー展」は渋い。凄い良い展覧会なんですよ。フランスの画家でフランスでもこんな展覧会は出来ない。あっちこっちに作品が散らばっていて。陳岡さんという学芸員が頑張って。
シャセリオーは一般にはロマン主義の画家と言われている。ロマン主義を説明するのが物凄い大変。最初に崩す運動がロマン主義。19世紀の全共闘。とにかく体制に反抗する。だから矛盾した要素もある。エキゾチックなものが大好き。一方で民族意識も強い。どっちなんだお前。両方とも古典的な西洋美術、ギリシャ・ローマが最高、イタリアルネサンスが最高。エキゾチシズムも民族意識もどちらでもない。俺たちのフランス民族の美術を作らないと、ギリシャ・ローマ以外のアラブや日本美術も良いんじゃないのという。アカデミズムに反抗する。アラブとフランスならどっちなんだということになるけれども。若者が集まってぐだぐだやるというのも始まり。古典主義に対抗する。文学のヴィクトル・ユーゴー。「エルナニ」を上演する。評論家がボロクソ言う。
アカデミズムに対する反抗運動。シャセリオーは最初アカデミズムの天才少年だった。当時のボスのアングル(新古典主義)の教室に11歳で入る。絵画のナポレオンになるだろうと。世の中そっちだったので先生違くねえかと。ロマン主義はドラクロアでアングルと物凄く仲が悪かった。ドラクロアのほうに行った。そっちのほうが女子もいるし。象徴主義、ギュスターヴ・モローや何かに影響を与えた。わずか37年の人生で3つの様式を。一人美術史と呼んでいます。
若い時は粗いタッチ。今は当たり前だけど、タッチそのまま。古典主義ではダメ。グラデーションはなだらかでなければ。その頂点はモナリザ。古典主義時代の作品があまりないので。技法が混ざっていたりとそれが面白い。平野啓一郎さんがドラクロアの主人公にした作品がその頃の時代を表している。
当時のブームが分かる。当時、アルジェリアに行くのがブームだった。
シャセリオーをこれだけ見られるのは俺が生きている間にはないですよ。よくこれだけ集めた。
5作品について音声ガイドをやっています。
(2017年05月01日 TBSラジオ「サキドリ!感激シアター」より抜粋)
シャセリオー展―19世紀フランス・ロマン主義の異才
2017年2月28日(火)〜2017年5月28日(日)
午前9時30分〜午後5時30分
毎週金曜日:午前9時30分〜午後8時
※入館は閉館の30分前まで
国立西洋美術館
当日:一般1,600円、大学生1,200円、高校生800円
展覧会特設サイト