2013年07月07日

候補者の視点から観た選挙戦の舞台裏について

街に響き渡るウグイス嬢の声や、駅前に立って演説をしている候補者の姿に「ああ、いよいよ参院選が始まったな」と感じている方も多いのでは?
そこで今夜は・・・候補者の視点から、選挙戦の舞台裏を描いているドキュメンタリー映画をご紹介しながら・・・今回の選挙で、わたしたちはどんなコトをポイントにして一票を投じるべきなのか?考えてみたいと思います。


ゲスト:ドキュメンタリー映画『選挙2』の監督、想田和弘さん:

観察映画は体感映画だと思っているのであたかもそこに放り込まれたかのような臨場感を目指していますね。

―(聞き手:駒崎弘樹さん、以下名前省略)2011年4月、震災と原発事故が起こった直後に行われた統一地方選挙に出馬した市議選の候補者の姿を描いたドキュメンタリーですよね。そもそもなぜこの作品を撮ろうと思ったんですか。

候補者は山内和彦さん、通称山さん、東大時代の同級生なんです。前に「選挙」を撮ったのは山さんがある大政党から立候補しまして、まさに大政党っぽいドブ板選挙、とにかく選挙カーを走らせて、たすきを掛けてあの光景です。あの光景の選挙をやって勝ち抜いていくドキュメンタリーを撮ったわけっです。で、彼はその政党から干されて主夫をやっていたんです。ところが、2011年3月11日にあの事故が起きて事故が起きたのにほかに13人の候補者がいて誰も原発の問題について言わないということに彼は疑問と憤りを感じてだったら俺が出ると言って出てしまったんですよ。今度は完全無所属で出ると。それを香港にいる時に聞いたので機材もなくて、ニューヨークに住んでいて機材もそこにあって、東京で一から機材を買って撮ったという作品です。

かなり撮る期間も短く、苦労されたんでしょうね。

そうですね。全く準備期間がゼロなので。僕の場合、観察映画は準備をしないのが観察映画のやり方でとにかく予定調和をしないためにリサーチもしないし、脚本作りもしないし、相手との打ち合わせもしないんですよ。とにかく目の前の現実を観察しながら撮っていくというのが観察映画のコンセプトなのである意味理想的な状況。山さんは前にドブ板選挙をさんざんやったんですけど、凄く反省していて今回は絶対やらないと言っていて、選挙カーも走らせないし、たすきも掛けないし、街頭演説も最終日以外はやらないと言っているんですよ。機材を買って川崎に行ったら、そう言うのでえっと、撮るところないじゃんと思ってどうしようかなと思って。観察映画というのは実はどんな人でもどんな題材でもよく見れば、絶対面白いところがあるから映画になるんだとさんざん僕偉そうに言っていたんですよ。それが観察映画の理論なんですよ。ネタじゃないんだ、撮る側の視点なんだというふうにずっと言ってきたのでここで映画にならないと思ってやめちゃうのはちょっとやばい。負けるわけにはいかないのでとにかくよく見てよく聞いて映画を作ろうと撮ったわけです。

ドブ板選挙というのはどういう意味なんですか。

これはいろんな説があってドブ板を一枚一枚はがすかのように票を掘り起こしていくという意味があるみたいですよ。

具体的にはどういうことをするんですか。

例えば、選挙カーで名前の連呼。「選挙」という前の映画では山さんが選挙のプロから3秒に1回名前を連呼しろと言われているシーンがあるんですけれども、そのぐらい名前を強調すると。それからたすきを掛けて街中を歩いて握手攻撃ですよ。バス停で強制的に待っているところをお願いしまうと。ああいうのですよ。

そういうのは僕らからすると何でやっているのかなと思っちゃうんですが、あれが票につながったりするんですよね。

つながるというふうに信じられているんですよね。そこがちょっと不思議なんですけれども。どこかの新聞が統計を取ったら、うるさい候補者の選挙カーに票を入れたいかというと入れたくないという人のほうが多いらしいですよね。

確かにそうですよね。既存の大政党は組織を使ってああいうのをローラー的にやっていくのが「選挙」に描かれていたことですよね。

そうですよね。政策論議にはなりにくいんですよ。公職選挙法で定められた制度というのが例えば、候補者討論会は全く制度化されていないからやられないんですよね。2回川崎の市議会選挙を見たんですが、1回も候補者討論会がないんですよ。

政策の話をする場なんて全然ない。

ないんです。だけど、ポスターとか選挙カーは公職選挙法上位置づけられた正式な制度で税金もたくさん使われているんですね。

いくらぐらいですか。

例えば、川崎だとポスターって70万円が上限で公費負担があるんですよ。180ヶ所貼ると倍まで刷っていいらしいので一枚二千何百円掛けていいらしいですよ。

そんな馬鹿な。

そのくらい何か変なんですよ。

変ですよね。

しかもよく考えるとあのポスターって候補者についての何も重要な情報を伝えていない。スローガンと顔写真でしょう。あれで選べというふうにある意味公職選挙法は言っているんですよ。でも、どうやって選ぶの、あれで。

ですよね。山さんはいくら掛けて選挙を戦ったんですか。

1では1000万円近くかけたらしいんですが、2は完全無所属で徒手空拳で孤立無援で立ったので、しかも主夫なので8万4720円。

お金を掛けない選挙は凄い大切なことですよね。

やっぱり選挙って誰でも。山さんは自分が入れたい票を投じたい候補者がいなかったから自分で出ると言ったわけですよね。普通は投じたい候補者がいないとなると棄権するとか、だから低投票率になっているわけじゃないですか。だけど、そこで自分が出ると言う選択肢があるということに山さんは自由人なんで気付いちゃったんです。山さんは本当に変な人で僕らは東京大学の同級生なんですが、同級生と言っても彼は僕よりずっと年上で5浪して東大に入っているんです。5浪して入ったくせいに授業に全然出てこないので3回留年しているんですよ。3回卒業アルバムに写真が載ったという。

愛すべき人ですよね。

そうですね。卒業した後には奥さんとインターネットで出会ってハネムーンは北朝鮮という、そういう人なんです。発想が自由なので選挙費用も実は安くてもいけるんじゃないかなと彼は思ったんです。

「選挙2」を見ていてかなり手弁当でここをもうちょっとお金掛けたらもうちょっとうまく出来たのにと思わなかったですか。

それはいろいろ思いました。思ったんですが、観察映画なのでぐっとこらえてとにかく山さんのやることをよーく観察してそれを映画にしたわけです。

「選挙」「選挙2」では市議選でしたが、国政選挙というとなると選挙戦も変わってくるんですか。

まず、供託金が高すぎる。

いくらですか。

選挙区だと300万円。比例区だと600万円。憲法違反じゃないかという声もあって被選挙権を事実上制限している。財産によって。弁護士の宇都宮健児さんに聞いた話なんですけれども、彼もこの間の都知事選に立った時に高い供託金に凄いびっくりしたらしくて、調べてみると1925年男子普通選挙が導入された時に同時に高い供託金が導入されたそうです。

そんな大昔ですか。100年近く前ですよね。

日本だけがこんな高い。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアはゼロです。

有象無象が出ちゃうんじゃないかということで規制されている。

ただどう規制するかはお金ではなくて別の指標で変えると。

推薦人でもいいし。

お金で制限するのは事実上の制限選挙と同じなのでこれは問題があると思いますよ。

おかしいですね。

おかしい。おかしい。だからみんな何か入れたい人がいないと棄権というふうになっちゃう。

そんなおかしいところばっかの選挙というところを「選挙」という映画で毎秒のごとくおかしいのをこれでもかと焚き付けて来て見ていて痛くなる。自分の国が痛くなるリアリティのある作品ですよね。

選挙2
2013年日本
07月06日公開
配給:東風
公式サイト
上映劇場
監督: 想田和弘(「選挙」「精神」「Peace」「演劇」)
製作: 想田和弘
撮影: 想田和弘
編集: 想田和弘
製作補佐: 柏木規与子
出演: 山内和彦ほか
senkyo2


























2011年4月の統一地方選挙から編集作業をしたのは去年の12月だと伺っているんですが。

撮り終わった瞬間は興味深いものを撮ったという感触はあるんですが、奇妙な物が撮れちゃったというそういう感じでした。なぜ奇妙に感じるのかがよくわからなくて、とっかかりがつかめなくてずっと放置していたんですよ。ところが、去年の12月に衆院選の結果が出て自民党が圧勝したという結果が出てこれは僕は意外な結果でもあったんです。というのはあれだけの原発事故が起きたじゃないですか。その後の最初の衆院選ですよね。ああいう結果が出るということにえっというのがあって、その時に感じたのがもしかするとあの時見た川崎市議選の時に既に似たような感じがあったんじゃないか。

あの一か月後だったにもかかわらず選挙カーや候補者は一言も原発の話を出していなかった。世の中的には大事になっていたけれども、しかし、選挙の争点は別のところにある。それが今まさにそうですよね。原発政策というのは争点には一応なっているもののどちらかといえば関心事は経済政策、いまひとつ争点として盛り上がらないというのは何が原因なんですかね。

もしかすると日本人は原発事故があったということを忘れたがっているんじゃないかと思うんです。なかったことにしたいんじゃないか。そう考えると凄く合理的なんです。選択も。もしかすると2011年4月という原発事故直後の選挙の時にも既にそうなっていたんじゃないかという感じがしているんですよね。もしかすると無意識に私たちはもうなかったことにしたいというふうに思っていたんじゃないか。

一方でそれを単に忘却してしまっては被災地の今大変な人はどうするんだと。実際福島では続いているわけですよね。子供たちが外で遊べなかったりとか、福島というだけで差別を受けてしまったりという問題がある。本当に忘れてしまっていいのかという問いは突きつけられますよね。

おっしゃるとおりで僕はそれは忘れてしまってはまずいと思うんですが、忘れたいという理由はちょっとわかる。だって、毎日気にするのは大変ですもん。「選挙2」でも山さんが何度も言いますよね、この川崎でもいつもの2倍の放射性物質が飛んでいますと。実は今でも同じじゃないですか。ということは僕らが毎日吸っている空気、食べている食べ物、水そういうものには微量ながら少しは含まれているはずなんですよ。でも、いちいち気にしながら水と飲んだりとか御飯食べたりとかは精神衛生上良くないじゃないですか。だから、移住する人もいるでしょうが、移住できない人がほとんどですから、そうすると忘れるというふうになりたくなるのは人間としては結構当然という気はするんです。ただ、その一方でそれでいいのかというのは問うてしまいますよね。

「選挙2」の上映に先駆けて今週火曜日日比谷図書館で前作「選挙」の上映会が行われましたね。でも、実は上映中止の可能性もあったということなんですが。

千代田区が日比谷図書館を持っているんですが、上映も決まって告知も済んでチラシも刷り終わっていたんですが、チラシを見た千代田区のお役所の人が問題があるんじゃないかと、つまり参院選の前だからこんな映画を出すのはセンシティブで問題なんじゃないかというふうに懸念を示して。今、指定管理者制度といって雲煙しているのは民間なんですよ。その民間のスタッフが一度中止を決めてしまったんですよ。僕らは抗議してそれが新聞沙汰にもなって結局上映はされることにはなったんですが、これは非常に言論の自由、表現の自由に対するある種の検閲じゃないかというふうに僕は思って無視できなかったんですね。

ちょっと怖いですよね。公示日より前で選挙についてある種相対的に考えられる機会であって、特にどの政党がどうということもないのにもかかわらず空気で締め付けてしまうということなんですか。

おっしゃるとおりで区の人もこれが公職選挙法に違反するわけではないということは最初から言っていたんです。何でダメなの?という感じで。ただ何となく怖いという感じなんですよ。それはちょっと納得できないんですよね。あと、やっぱり僕らは選挙が近いからこそこの映画を上映してみんなで話したかったんです。だって選挙前だからこそ選挙について話したいじゃないですか。日比谷図書館だけの問題ではなくて日本全体の問題で特にマスコミの間で強い。今日も実は政党名を僕は言っていないですね。今まで一回も。言っちゃまずいというふうに自主規制があってガイドラインがあるそうなんです。これは各放送局にあるそうでガイドラインに引っかかってしまうので僕は政党名が言えないんです。でも、それってどうなんでしょうか。今から選挙があって個別の政策とか何党の政策が良いとか悪いとかこれから盛んに議論しなくちゃいけないでしょう。議論しなくちゃいけないこの選挙期間中にその議論をすることが不可能だ。しかも、それは公職選挙法に引っかかるわけではなくて自主規制で出来ないんだということは僕は言論状況として非常にまずいんじゃないかと思います。

全くわけがわからないと思いますね。本当に。僕もその枠の中にはめられてラジオの番組をやらせていただいていますが。何でかなと。選挙の話とかちゃんとしなきゃいけないのになみたいなのを思いながらしょうがないかとやっちゃっているんですが。おかしなことだらけの選挙という状況なんですけれども、想田監督はどんな政策や候補者に一票投じたいと思いますか。個別の政党というわけではなくて。

僕は個人的には3つの点は譲れない点があります。

一つは原発をなくす方向で脱原発を進めてくれる政党でないと僕は投票する気にならないですね。そこが曖昧なところは無理です。

それから憲法を改悪しようとしている、あるいはふらふらしているところには投票する気はないです。

それからTPPも僕は大反対なのでそれに是々非々とか中立というところにも投票できないです。

脱原発というお話があったんですが、「選挙2」でも山さんが脱原発ということで非常に怒って防護服を着て演説をしているシーンがあってシュールなんですが、一方でもうちょっとうまくいけたら良かったんじゃないの。先鋭化して怒りをもってやってしまうと国民的トラウマになっている福島や原発のことに対してうまく言葉が届かない状況があったりとすると思うんですよ。

そうですね。

そういった意味でもっとやり方があったんじゃないかと思ったりしたんですが。

そうですね。おっしゃることはよくわかりますね。ただあの時は僕も山さんも結構異常な状態ではあったと思います。精神的に。あの時は異常であることが正常だったんじゃないかというふうに思うので僕はその点は山さんのことをかばいたいと思っているんです。ただ、私たちももう少し戦略が必要だったんじゃないかというのはおっしゃるとおりで実は山さんは8万4720円という戦いをしたんですが、実はそういうようなことをやってちゃんと当選する人たちもいるんですよ。同じ選挙に出てトップ当選した人がいるんですけど、この人は実は4万なんぼしか。大政党を抑えてトップ当選している。

中小政党ですよね。

この人は何でそんな選挙をやったかというと、僕の前の映画「選挙」を見てああいう選挙をやってはダメだと、金をかける選挙はやっちゃだめだと気付いて自分が出る時には、凄い若い人なんですが、とにかく安く選挙カーを使わずに事務所は間借りでポスターは自分でデザインしてそれで立ったんですよ。

皮肉というか。

ある種の戦略を持っていくべきだと後からは言えるかもしれないけれども、当時のある種の空気感というものが出ているというころですよね。

ある意味震災後の日本というものが凝縮されているというかあの小さい川崎の市議選に縮図があるんじゃないかと思うんですよね。今の時点から見ると全然違った風景に見えるんですよ。私たちは2年ちょっと経っていますよね。震災から。その時点から振り返るというんですか。日常なんです。震災映画といっても福島に行ったわけでもないし、東北に行ったわけでもないんです。川崎なんです。東京圏と同じなんですよ。それって結構カメラを向けていないんですよ。みんな福島とかに行っちゃったから。僕も川崎で撮っている時は川崎に何でいるんだろうと思ったぐらいなんで。でも、今から見ると川崎も東京も被災地だったんですよね。

その空気感が凄く出ている作品ですよね。

(2013年07月05日J-WAVE JAM The World「BREAKTHROUGH」から)


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