2011年12月18日

トーキョードリフター(感想)

トーキョードリフター 
2011年
12月10日公開
東風配給
72分
http://www.tokyo-drifter.com/
劇場情報
☆☆☆☆ 
監督: 松江哲明ライブテープ」「DV」「あんにょん由美香 [DVD]」「童貞。をプロデュース」
撮影: 近藤龍人
制作: 岩淵弘樹
録音: 山本タカアキ
出演: 前野健太トーキョードリフター』『ファックミー』「ライブテープ」「DV
tokyodrifter






















スタッフ、出演者の名前がデジタルな文字で出現する。

2011年5月。上からのぼやっとした画面。夜、交差点の真ん中でギターを弾く男、前野健太。ぼんやりとした明るさの街、新宿三越があったビルの前の路地でギターをかき鳴らしながら歌う。人々が下を向いたようにするっとすれ違っていく。力なく。スズキのバイクで移動。松原の商店街を歩きながら歌い、踏み切りの音に負けずに歌い上げる。アパート前で静かに歌う。
人通りが少なくなった夜の渋谷、H&M前でファックミーを叫ぶ。雨が強くなる。109へ、バイクで移動しながらAKBのヘビーローテーションを口ずさむ。雨は降り続く。セブンイレブン前で歌う。歌声がカメラを突き抜けてくるようにぶつけてくる。バイクで移動。河川敷で歌い上げる。雨は降り続きながら。真っ暗な画面が続く中でトーキョードリフターが流れる。

一部、松江監督、前野さんの舞台挨拶で話されたことの内容を含む。

松江監督のドキュメンタリーは必ず見なければいけないと思っている。見てしまう。何か好きなのだ。

東北、東日本大震災、津波、原発事故から間もない東京。ぼやっとした感じ、ショックにまだ立ち直れていない街が画面から伝わってくる。途中途中で画面が意図はしていないのかもしれない画面が真っ暗になってから切り替わるその一瞬がその時ではないと伝えられないものだったのだと思う。
監督は震災の日に映画祭で韓国に行っていて帰ってきた時に東京も暗くなっていて、東北の被災地とは大小あれど東京も被災地だと感じた。震災後すぐには映画を撮るという気にはならなかったと松江監督は言う。言葉にできない、言葉を求められるけれど。だから、映画では歌のタイトルなどテロップも出さなかった。後々言葉が大きくなっていくから尚更というようなことをおっしゃっていた。映画を製作した時やその後は物理的に暗くなった東京を撮って良かったと思うが、当時は良かったという言葉を口にしたくはなかったと言う。今では東京も段々明るくなってきて元に戻ってきてしまった。それが早過ぎるし、街の照明、明るさはまだ暗くてもいいのではないか、ヨーロッパでは午後8時には店は閉じ休日は店はほとんど休みなっていて明るさの緩急がついているのだけれども、日本ではテレビのアナウンサーが明るさを取り戻さないといけないと言っているが、そうではないだろうという思いがあったと監督は話していた。明るさを無理に取り戻そうとするのは間違いのような気もする。そういうところはもっと抑えたほうがいいのではないかと私も思った。後半のほうで前野さんがギターを背負ってバイクに乗って走っている画面からそれてタクシーの後ろの窓に張られたがんばろう日本というシールが皮肉にも見えた。訴えたいのはこういう国民の同一性を求めるものじゃねえだろ。松江監督が高円寺だか吉祥寺のデモを前野さんのアルバムを聴きながら眺めていて、前野さんもそういうのとは何かちょっと違うということを話していた。事柄は違えうけど、そういうのの共通性はあるのかと。まあデモと民衆の総意を訴えていくのは難しいのでここでは言及しない。

前野さんはがんがん歌で切り込んでいく。撮っている松江監督のほうがセンシティブになっていたのではないかという感じがした。おばさんパーマみたいな髪でサングラスの前野さんがモンスター、ゴジラのようだった。突き進んでいく。「ライブテープ」の時には吉祥寺で元旦ということもあってすれ違う人々が前野さんに対して意識して見たり、関心が向けられていたが、今回は震災後、加えて夜ということもあって前野さんが歌い上げていても歌っている人がいるくらいの関心しかないのが分かった。心に余裕、傾ける耳がなくなっていたのだと今見ると冷静に見れてしまう。だが、撮っていた松江監督が当時そう気付いていたのかどうか、それが気になった。

観客の今回はぶっけらぼうな撮り方だったという質問の松江監督のお答えを聞いて、「ライブテープ」は完成品をきっちりと出そうとしていたんだと改めてわかった。その後、前野さんが監督とは音楽と映画で違うけれども、お互いライバル関係であり、PV、映画がどちらの作品になるかでぶつかり合いがあると話していた。その話でいうと「ライブテープ」はどこで撮ってという演出が細かく松江監督の作品であるけれども、きっちり前野さんの歌、音楽の良さを最大限に引き出していて前野さんの作品という色が強かった。しかし、今回は一見あんまり演出をつけないような感じが前野さんの歌を少し弱め、夜の街の暗さを出し、今回は松江監督らしさがとても出ていたように思う。最後のトーキョードリフターという曲の歌詞がとてもスマートになったと思ったら、作詞が松江監督だった。そういうところも松江色が強いところだ。それにしても前野健太さんの歌は青い感じがずっとしていて凄く良い。

今もそうだが、5月はもっと放射能が強いのに雨の中歌わせる。その怒りというのもあったように聴こえた。監督と前野さんのぶつかり合い、スクリーンを見る観客とのぶつかり合いもある映画だ。歌っている姿を見せつける映画でこういうふうに受け取って下さいというものがないだけにぶつけてきたからしっかり受け止めてぶつからなければならない。震災、津波、原発事故後に震災とは関係ない映画を見ていても震災、原発のことを考えてしまう。この作品はずばり震災のことも原発のことも考えてしまうが、不思議とほかの関係ない映画を見ているよりも集中して映画に入り込むことが出来た。

松江監督が震災後に映画を観るという行為のハードルが高いが音楽はすぐに耳に入ってきて音楽を聴くという行為ができたと話していた。私は本を読むというのもなかなか出来なかった。見て聞いてという映画もなかなか頭に入ってきにくいものである。具体的表現よりも抽象化された歌のほうがいろいろ考えなくて済むのかもしれない。

松江監督と前野さんはそんなにしょっちゅう会う関係ではなく、仕事の時に会ってたまに電話をしたり、メールをしたりという仲で、ほかのスタッフとも30代だからか助監督を経験して監督と仲良くなって公私共にという関係ではなくても仕事はきっちり出来る関係性が作られているという話だった。黒沢清監督も以前シンポジウムで上の団塊の世代ぐらいは仕事が終わっても飲んだりして面倒だったが、今の若い人はきっちり仕事が終わったら飲まないで帰るクールさがあって良いと言っていた。自分の役割が終わったらそれでという関係性は今では珍しくはない。それが冷たいというのでもないのはそうだと思った。

45分にわたるお二人のトーク。松江監督のジャック&ベティ好きの発言が嬉しかった。小さな映画館で舞台挨拶、何だか温かいような雰囲気があったのか。確か爆音映画祭のゼイリブに来ていた。CDとパンフを買ってお二人にサインをしてもらった。嬉しかった。前野さんのクリスマスイヴの19時にニュースがあるというのが大変気になった。



前野さん自身が撮ったPV






追記:前野健太が〈みうらじゅん賞〉受賞

みうらじゅんが主催し、独断により選考・贈呈する賞〈みうらじゅん賞〉。14回目を迎える今年、前野健太が同賞を受賞した。

今年の受賞者は、野口健、わさお、ピンク・フロイド、ミゲル、そして前野の計5組。ユニークな面々と肩を並べての受賞となった。

また12月14日にリリースされた新作CD『トーキョードリフター』より「トーキョードリフター(前野健太 × アナログフィッシュ)」のPVが完成した。高野良和(GROUNDRIDDIM)による疾走感溢れる映像に仕上がっている。

OOPS! - 2011年12月26日

http://oops-music.com/news.php?nid=70325

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